2013年7月12日の日経新聞に「日生に挑んだ男」と題する記事で当時のライフネット生命社長の出口治明氏が紹介されています。何に挑んだかと言うとライフネット生命が保険料の内訳としての手数料を開示したことに関する記事でした。今も一部の生保しか開示されていない手数料ですが証券会社や銀行の商品では手数料を開示する事が一般的なのに対し生命保険会社では一部の会社でしか開示されていません。かたや保険会社社員の給料は高く就職したい企業ランキングでも生保や損保は長年上位に位置付けられている理由もその給料の高さからでもあります。出口氏は「子育て世代の生命保険料を半分にしたい」との思いで生命保険業界の慣習を破り一石を投じたのでした。
根本的な業界体質として生保損保ともに閉鎖的な体質であることが挙げられています。特に生命保険業界は「相互会社」と言う独特の企業体制をとっており、常に株主の視線に晒される「株式会社」より構造的にも閉鎖的になりがちです。このことが生保業界独自の体質となり過剰なノルマや優秀成績社員への指導欠如から様々な事件も巻き起こしています。バブル時代当時に保険会社社員だった私は上司から「問題が起きても保険会社はマスコミの大株主だから大事にならない」と聞かされたことを思い出しました。
保険料の内訳としては「純保険料」と「付加保険料」に分けられます。純粋な統計学としていくら保険料を払い、いくら給付金額を受けるかの総合計がイコールなのが純保険料部分ですが、それ以外の経費等が付加保険料であり生命保険会社の社員の給与もここに含まれます。この付加保険料の「取り分」が宝くじより高い事は保険業界に詳しい業界人やFP等ならば周知の事実です。
運用にある程度なれている人ならばどの金融商品の手数料がいくらかご存じですし所謂ネット証券ならば「手数料0」を標榜している証券会社さえある現在において手数料がブラックボックスのままの金融商品を選ぶのは時代遅れとなりかねません。近い未来にチャットGPTに「生命保険は必要か」と問い合わせると「不要です」と回答される日も近いかもしれません。
出口氏はライフネット生命社長を経て立命館アジア太平洋大学学長となり今年退任予定です。生命保険に関する著書も有りその発言も長年見てきましたがライフネット生命時代は「付加保険料を減らす」と発信され学長時代は「生命保険は公的保障が有れば余り必要ない」と私と同じ様な思考遍歴を経ていますので今回ご紹介させていただきました。